「サルウイーン河のダム開発」,私がサルウイーン河を最初に目の前にしたのは,2000年10月3日だ,と書いている。ミャンマーから入ってマンダレーで集結し,西のはて,中国との国境に近いコーカン特別自治区に入る途中で,道路の脇を流れる大河に接した。予感通り,水はどす黒く不気味な河であった。これが,全くダム開発が行われていない処女河川なのである。
タイが経済発展を遂げる1980年代後半には,サルウイーンの下流部は,日本の電源開発の庭で,発電と共にサルウイーンの水をバンコクに持ってくる計画が調査されていた。ミャンマーの軍事政権がますます孤立を深める過程の中で,力を付けてきた中国経済の元,中国企業がミャンマーのダム開発を手がけるようになり,日本勢は殆ど撤退した。今は,中国とタイの資本の元に,ダム計画が進められていると聞く。
タイの環境の専門家は,中国の現政権は,少しは海外で勝手に動き回る中国企業をコントロールしたらどうなのか,と問題提起している。この専門家の言い分は,サルウイーンの上流にある中国領内の怒江の問題で,上流と下流とが全く別個に開発計画を動かしているのはおかしい,と言っていて,まさに正論である。メコン河でもこの問題が,昨日の記事で扱われていた。
下流の計画には,Hutgyi ダムと Tasang ダムがあり,比較的規模の小さい Hutgyi ダムが先行しているが,Tasang ダムについては,タイの企業が40%の持ち分で走っていたのに,ミャンマー政府がこれを取り上げて,ミャンマー政府の持ち分を増やし,中国企業の持ち分を51%,マジョリティにして,中国企業に主導権を与えようとして問題になった。今日の記事の Wai Gyi ダムはこれより上流で,中国の主導であろう。
上流の中国,怒江の開発については,嘗てタイム誌が取り上げたことがある。サルイーン河上流,中国領内の怒川のダム開発の雰囲気について,住民の立場或いは環境団体の立場から,中国の地方政府の施策を批判的に書いたものであった。
新政権,湖錦濤の時代になって,温家宝が首相となったが,温家宝首相はダム開発に関して,国家的な目的は理解しながら,かなり消極的で,どんどん進む大規模開発に懸念を示していたようだ。下流についても,中国が主導権をとるつもりならば,何らかの国際的な開発組織を造って欲しいと思う。
本文
●サルイーン河のダム計画,生物多様性環境を破壊する
サルイーン河の開発の中で Wai Gyi ダムサイトが何処にあるのか,確認できないが,おそらく Shan state にある Ta Sang プロジェクトの更に上流にある中国との国境に近い,第3のダムサイトであろう。発電所出力は4,000MW以上で,貯水池の湛水面積は380平方kmで,琵琶湖の半分ぐらいに相当する大規模なダム計画である。
これに反対しているグループは,タイに本拠を置く Karen Environmental and Social Action Network (KESAN) で,40種以上の絶滅危機に瀕している動植物があって,ダム建設によって下流の流量が激減し,この生存が危ぶまれる,と言うものである。
主題以外に,中国とタイの資本が,この成果を持って行くもので,地元への便益還元がなされる可能性はない,との論拠である。中止せよと言うのか,便益を適正に分配せよと言うのか,いつもの通りその論点が確定しないところに問題あり。
●中国,チベットで新しい発電所が運転開始
小規模の水力発電所の運転開始のニュースである。場所がチベットなだけに話題を呼んでいる。40MW規模,Xoka Hydropower Station で,位置は,Gongbo'gyamda County in east Tibet's Nyingchi Prefecture となっている。2006年6月着工,7.23億元,約1.06億ドル相当,ダムの高さは20mで,貯水容量は86万トンの,調整池式水路型と言うところか。
●パキスタン,カシミールの Jagran 水力発電所建設へ
発電所は小さいが,地域が地域なだけに話題を呼ぶ。この Azad Jummu and Kashmir と言う地域は,パキスタンの首都から僅か50kmの西にあって,インドとの間で国境線で紛争地帯になっており,つい先日までは両国の戦場であった。しかし,水力の宝庫であって,既設 Mangla ダムや計画中の Neelum Jhelum Hydropower project 969MWの地点が散在する。
私たちが2000年ぐらいに地方電化で北西辺境州に入ったとき,この地域で活躍するドイツの GTZ (German Agency for Technical Cooperation) のスタッフが造った報告書をよく目にした。とんでもない山の中に居座って,中小規模の水力をまとめて行くねばり強い姿勢に敬意を表したものである。今日の場所は少しそれよりは東方であるが,やはりこれもGTZの成果のようだ。
この Jagran hydropower station は,Village Dilapi in District Neelum of AJK にあって,12.5MWのフランシス水車と16MWのペルトン水車からなっている。流域面積は317平方km。GTZは他に,Dhannan 1.6 MW,Battar 3.2 MW,Jhing 14.4 MW などを準備中である。彼等は偉い。
●フィリッピン,PSALM,NPCのローン返済,日本へ1.84億ドル
フィリッピンの電力改革は,元々は国家電力公社NPC National Power Corporation の負債に発したものである。今日の記事は,600MW Masinloc coal-fired power plant in Zambales の借款の返還に関するもので,相手はADBとJBICである。Masinloc が無事に売却されたことによる措置だと書いている。NPCの負債,2007年末の70億ドルは,2008年9月の時点で58億ドルまで減ったようだ。でもこれからだ。
Reference
Pakistan
●080927A Pakistan, pakobserver
パキスタン,カシミールの Jagran 水力発電所建設へ
Rs 5b Jagran hydropower station
http://pakobserver.net/200809/26/news/topstories09.asp
Philippines
●080927B Philippines, Manila Bulletin
PSALM,NPCのローン返済,日本へ1.84億ドル
PSALM to prepay $ 184-M yen loans
http://www.mb.com.ph/BSNS20080927136361.html
Myanmar
●080927C Myanmar, mizzima
サルイーン河のダム計画,植物環境を破壊する
Junta's hydropower projects to endanger biodiversity of Salween River http://www.mizzima.com/news/inside-burma/1105-juntas-hydropower-projects-to-endanger-biodiversity-of-salween-river.html
China
●080927D China, xinhuanetチベットで新しい発電所が運転開始
New hydropower station starts operation in Tibet
http://news.xinhuanet.com/english/2008-09/26/content_10118158.htm
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