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http://my.reset.jp/~adachihayao/index.htm
インドのプロフェッサーが,長文の記事をジャパンタイムズに寄稿した。プロフェッサーらしく,世界の水事情を冷静に解説しながら始まるこの記事は,中国の水への執念に的を絞った厳しい内容である。彼は,「過去の戦争は領土争い,現在の戦争はエネルギー争い,将来の戦争は水争い」,とことの深刻さを簡潔な文章で表現している。
我々から見ると,アジアという世界は水が豊富で,最近は中東の資本が,将来の食糧事情を見越してカンボジアなどの農地を買収,確保に走っている,と言う記事も見ている。私も,道路が並木のトンネルになるのは雨量2,000mm以上,東南アジアでしか見られない。南米やアフリカや中東のあの裸の山を見ると,アジアの水は豊富だと思っている。
でもプロフェッサーは,飲料水など生活に使える水はごく僅かだという。地球の3分の2は水であるが,塩を含んでいない水は僅かにその2.5%,また南極や北極の氷を除くと1%に減るという。そういう話をした上で,中国の水問題の深刻さを語り,中国にとって,チベット高原の水は,かけがえのないものである,と言う。
1989年に湖錦濤が戒厳令を敷いてチベットの維持に動き,温家宝首相も,「水不足の問題は中国の生死を分かつ」,という言葉を発している。またもっと不吉な言葉は,前水資源相である Wang Shucheng, の言葉で,「最後の一滴の水まで戦うかそれとも死か,これが中国が当面している挑戦である。」,と。チベットは,その広大な面積の中に,氷河と地下水で莫大な水を包蔵している。
教授は,このチベットの水資源の特徴は,量ではなくてその標高にあるという。標高5,000mにある莫大な水は,計り知れない価値を持っている。まさしく,重力で灌漑出来る場合の日本の農業に対して,インドは,灌漑のためのポンプの容量が大きく,これを農業用として電気料金優遇しているために,インドの電力セクターは貧乏している。日本の電力も農業を優遇しているが,ポンプは少なく,問題になっていない。
そこでチベット高原だが,量ゆえに,また高さゆえに,アジア大陸の大河川を思うように支配している。特に,インドのインダス河と Brahmaputra 河はチベットに徹底的に依存している。中国が,Brahmaputra 河の有名な峡谷,「大屈曲点 Great Bend 」,にダムを造る計画を持っている。しかもこの地点は,インドとの国境に達する直前の中国領内である。重力だけで北京まで水を運ぶことが可能なのだ。
教授は,単にチベットを有する中国を攻撃しようとしているのではなく,国際河川のあり方を述べている。このような重要な国際河川に於いては,何らかの国際機関の介在が必要だ,と主張している。その機関の要件は,透明性の確保,情報の共有,河川汚濁の防止,流域外への分流の阻止,であると言っている。メコン河委員会は,中国の不参加で,十分に機能していない。
本文
●アジアでの近い将来の水戦争,これを避けるために
アジアの水問題に対する長文の投稿が,Japan Times に寄せられた。最終的には中国による周辺諸国への水の脅威だが,書いた人は,奇しくもインドの水文学者で,Brahma Chellaney,a professor of strategic studies at the privately funded Center for Policy Research in New Delhi. である。書き出しは穏やか。昔の戦争は土地を争い,現代の戦争は油を争い,明日の戦争は水を争う,という文章で始まっている。
世界の水の総量から入り,いきなりアジアに転じて,激しく中国の地理的な位置と政治的な野望の重なりを抉って行く。総量は,地球の組成の3分の2を占めるが,飲み水として可能性のあるのは僅か水総量の2.5%,そのまた3分の2は両極の氷に閉じこめられており,実際に使えるのは,全体の1%だと言っている,まあそうだろう。世界で15億の人が水に近づけず,25億の人が下水に困っている。
途中,いろいろな議論があるが,アジアの水問題をチベットの地理的水文的な特殊な位置づけに議論を集中させている。チベット高原がすべてのアジアの大河川の水源になっているという。中国政府のチベットに対する特殊な政治的意図は,単なる民族間の問題ではなく,中国にとっては,東の乾燥大陸に対する最も重要な水源なのだという。
チベットの水資源のポテンシャルは,その広大な領域に潜むまた広大な氷河と地下水であり,またもっとも注目すべきはその標高だ,と言うのである。その通り,低地に水があっても殆ど役に立たない。このチベット高原の高さが,アジア大陸の0水を支配する大きな要因なのである。インドの河川は,ガンジス川を除いて,殆どこのチベットに水源を発しているのである。
現在の中国の主席湖錦濤が,1989年にチベットに戒厳令を敷いて騒乱を抑えたことは,勿論彼の脳裏に刻まれており,また温家宝首相も,「水不足の問題は中国の生死を分かつ」,という言葉を発している。またもっと不吉な言葉は,前水資源相である Wang Shucheng, の言葉で,「最後の一滴の水まで戦うかそれとも死か,これが中国が当面している挑戦である。」,と。
"To fight for every drop of water or die, that is the challenge facing China."。River Brahmaputra の大屈曲点 Great Bend に建設されようとしている中国の大規模ダムが,インドが恐れる最大の中国の河川プロジェクトである。いずれにしても,この論文を書いたインド人の Brahma Chellaney は,中国に戦いを挑んでいるのではなく,世界は今何をすべきか,を問いかけている。
彼は,大陸の国際河川については,何らかの協議を行う国際的な機関の設立が必要で,それは,透明性,情報の共有,汚濁防止,それと国際河川の流域変更を禁止することだ,と言っている。歴史は長いが,なかなか機能の発揮できないメコン河委員会のこともあるが,おそらく,インダス,ブラマプトラ,イラワジ,サルウイーンなどの国際大河川には,将来欠かすことが出来ない問題だろう。
●インド,ロンドン籍企業 Hindujas,インドの電力セクターに150億ドル投資
パリ発である。Hinduja とは何者?と思って調べてみたら,日本語でこの財閥のニュースを集めている人がいた。基本的には,ロンドンに本拠を置くインド人の財閥の一つで,最近では日産自動車と組んで,インドで小型車の開発にも取り組んでいるが,従来はインドの製油関係の大きく食指を伸ばしている。それにしても大きな仕掛けで,10年で1.5兆ドル,インドのGDPの1.5倍の額である。
パリで開かれたインドの商業フォーラムでの意思表明で,特に,この金融危機と米印原子力協定の発効を意識しながら,今がインドへの投資のタイミングで,インドの今後の高成長を考えると,この規模の投資が必要だ,と言っている。当面視野に入れているのは,Andhra pradesh 州の1,000MWと Tamil Nadu 州の新規4,000MWだと言っている。
ただ面白いのは,このフォーラムの中での会長の発言である。インドに注文を付けている。「まず,インド政府は自分の靴下を引っ張り上げてくれ。それは大規模発電計画を進める際の,情報公開と責任の所在の問題だ。」。最近の大規模開発が,資金調達の前に混乱しているのは,入札から資金調達の間の手続きの混乱が続いているからであろう。
なお,この記事の中に,インドの第11次五カ年計画の新規電源は,78,577MWであったものが,90,000MWに引き上げられた,と書かれている。これは初めて耳にする情報である。
●インドとネパールの水資源高官会議終了,12点で合意
国境を接して厳しい水資源問題を持ちながら,政治的和解が急激に進み,協議も和やかな雰囲気で進んだとの印象であるが,結論の中には,長い間紛争となっている国境の道路や河川管理の問題,特に堤防の問題など,棚上げされた問題も多く,厳しかった両国の過去の歴史を反映している。関心のある合意事項を拾ってみた。
最大の問題は,Kosi 川の洪水の問題で,今も400万人の両国の人々が,住居を流されて住むところのない状況にあり,3月までに救済を行うことで協力することとなった。インド側の Bihar 州の堰の管理に問題があった,とネパール側が補償を要求すべきところのようだが,ネパール側はあえてこの問題を出さず,国境を開けて,両国の協力が進むことになった。原因は堤防の決壊である。
また,この治水問題と関連するが,大規模貯水池の建設については,両国政府が関与して実施することとなった。それは,Pancheswor multipurpose project と Saptakoshi multipurpose project で,現在進んでいる民間資本による水力開発とは一線を画すことになる。また,ネパールの電力不足対策に直結する,240MW Naumure hydropower project も同じ線上に置かれる。
●ミャンマー,中国とのダム開発,カチン族の反対に遭う
「ミャンマーカチン州は,ミャンマーの最北,北と南をインド,中国の国境,西をサガイン管区,東をシャン州に接している。主要な河、メリカ河、メイカ河,イラワジ河は北から南に流れておりカチン州の最も人口が少ない肥沃な谷で合流している。これらの谷間はヒマラヤ山脈の南端、国内最高峰の山々が連なるところである。」,とミャンマーナビ記されている。
しかし,東南アジアの各地で起こる問題であるが,所謂私兵が,プロジェクトに対する「税金」を要求してそれ従う,ということの事実が鮮明にかかkれている。カチン族は,既にミャンマー正規軍とは協定を結んでいるが,実際には活動中で,今回の報告は,独立グループ Kachin Independence Organization (KIO)から報告された。
ミャンマー政府の電力省と中国企業 China Datang Corporation (CDC) が合意して建設中の二つの水力プロジェクト,240MW Tarpein 1 hydroelectric dam (Momauk Township から6km地点)と,その下流10kmの位置にある,168MW Tarpein 2 で,約束した税金の支払いがないのに反発したカチンの兵士が,プロジェクトを包囲したものだ。解決したようだが,それも正規軍が仲介したという。
カチン州では,既に中国企業が9つの水力発電所の開発協定を,ミャンマー政府と結んでいる。最も大きいには,3,600MWの Myitsone hydropower project で,カチン州の州都 Myitkyina の北42kmに位置する。こういう事件でもなければ,世界は何も知らないわけである。
Reference
Nepal
●081002A Nepal, gulf-times
インドとネパール,コシ川の治水問題で3月までに協議
India and Nepal agree to tame Kosi by March
http://www.gulf-times.com/site/topics/article.asp?cu_no=2&item_no=245112&version=1&template_id=44&parent_id=24
Myanmar
●081002B Myanmar, irrawaddy
中国とのダム開発,カチン族の反対に遭う
Chinese Dam Incurs KIO Wrath
http://www.irrawaddy.org/article.php?art_id=14360
China
●081002C China, search.japantimes
アジアでの近い将来の水戦争,これを避けるために
Averting Asian water wars
http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/eo20081002bc.html
India
●081002D India, Economic Times
ロンドン籍 Hindujas,インドの電力セクターに150億ドル投資
Hindujas begin work on $15 billion power plan in India
http://economictimes.indiatimes.com/News/News_By_Industry/Energy/Power/Hindujas_begin_work_on_15_billion_power_plan_in_India/articleshow/3548102.cms
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